第4章 麻に連るる蓬
保健室の前に辿り着き、炭治郎は扉に手をかける前に、理緒に尋ねた。
「先に教室に戻るか?」
理緒は、むっとした表情で、炭治郎の背中に書く。
『いっしょに』
「ああ、そうだな。そもそも俺が一緒に、って言ったんだったな」
と炭治郎が笑いかけるので、理緒は頷く。
今さら、一人で戻るのも気まずいだけだ。炭治郎と一緒に戻るほうがいい。
炭治郎は保健室の扉を開いて、中へ入る。
理緒は用もないのに入っていいものかと悩んだが、付き添いということにしてしまおうと炭治郎に続いた。
入るなり、炭治郎は保健室の中を見回す。
「あれ、愈史郎。珠世さんは?」
愈史郎と話しかけられた彼は白衣を着ていて、何やら分厚い本を読んでいた。医学書だろうか。
保健医がその珠世さんならば、この人は助手なのだろうかと理緒は考えていた。
読んでいた本を閉じて、愈史郎は尋ねる。
「珠世様は今はいない。女を連れてきて何の用だ」
角が立つような物言いに、理緒は尻込みする。
炭治郎の背中と愈史郎の顔を交互に見て、話の行く末を見守る。
「ああ、頭を打ってな」
「女がか?」
「いや、俺が」
「お前なら唾でもつけてれば治るだろ」
「そうなんだが、一応診てくれよ」
なんで俺が、とぶつくさ言いながら愈史郎は炭治郎の元へ来る。悪態をつきながらも、診てくれるらしい。
炭治郎が差し出した後頭部を軽く触り、
「何ともなっていないぞ。帰れ、石頭が」
愈史郎は終始つっけんどんな態度だが、それには理由があった。
保健医である珠世が席を外しているのは一時的なものであり、もうすぐ帰ってくるはずだった。
帰って来てしまっては、珠世との二人の時間を邪魔される。それだけは回避したくて、早急な立ち去りを願っての行動であった。