第4章 麻に連るる蓬
理緒は意を決して、小さく首を振った。
苗字で呼ばれるのを否定したことから、炭治郎は名前を口にした。
「……理緒」
そう呼ぶ炭治郎の声が、また理緒の頬を染める。気恥ずかしい。
それを男子に名前で呼ばれることに耐性がないせいだと理緒は思い込む。
炭治郎は、名前で呼んでも呼ばれても、別段なんにも思わないのだろう。
そう思うと、なんだか腹立たしくて、唇を尖らせる。
その様子を見て、炭治郎は吹き出した。
理緒は眉を顰めて、視線だけで問いただす。
「いや、すまない。理緒は忙しいやつだと思ってな」
その答えに、理緒は顰めた眉はそのままで、首を傾げる。
「照れたり恥ずかしがったり、怒ったり。感情がコロコロ変わるもんだから」
隠していたつもりはない。
隠せているとも思っていない。
けれども、こうも筒抜けになっている恥ずかしさに、理緒は足を止める。
先に一段おりた炭治郎は振り向き、理緒の顔を見て言う。
「あ、また恥ずかしがっているな」
わざわざ言わなくてもいいだろうと、理緒は炭治郎の背中をぽかぽかと、なぐった。
「今度は怒っているし、本当に理緒は忙しいなぁ」
炭治郎の暢気な口ぶりに、誰のせいで怒ってると思っているのかと問いただしたい気持ちでいっぱいだった。