第3章 合縁奇縁
『どうして』
「ん?」
『おいかけてきたの』
「ああ。冨岡先生に頼まれたから」
そういえば冨岡先生が教室を出ていく際に、声をかけていたことを思い出す。
なるほど、先生に頼まれたからか。優等生というのは大変だな、と理緒は他人事のように思った──
──言葉の続きを聞くまでは。
「というのもあるが、俺自身が気になったんだ」
訝しげな顔をしながら、理緒は尋ねる。
『なにが』
炭治郎は振り返り、真っ直ぐに理緒を見据えて、問う。
「どうして、人を避けるような真似をするんだ?」
それに対して理緒は目を伏せて、答える。
『きらい』
「人が嫌いだから、避けるのか?」
理緒は頷く。
「それなら、どうしてそんなに悲しそうなんだ」
炭治郎の指摘は、的を射ていた。
いつもならば、理緒はその言葉を疎ましく思っただけだろう。
しかし、そう言う炭治郎の表情がどこか淋しげで、理緒は胸を締め付けられた。
どうして、あなたがそんな顔をするの。
それでも人を避けるのが辛いなどと認めてしまったら、取り繕うことはもうできない。
『かなしくない』
否定することで、何とか自分を保とうとする。
「そんなことはないだろう」
『ほんとに』
「嘘だ!」
強く言い切られたことに苛立って、理緒は炭治郎を拒む。
『かえれ』
「わかった」
その返答に心臓が、まるで串刺しにでもされたかのように痛んだ。
望んでいたはずなのに、こうもあっさりと引き下がられたは、傷つくだなんて。
我が儘にも程がある、と理緒は自嘲した。
けれど、これでいいんだ。
一人でいる覚悟を決めたんだ、揺らぐわけにはいかない。
それなのに、
「帰るときは一緒だって言っただろ」
そう言うと炭治郎は、理緒を抱きかかえた。
瞬き一つの間に、持ち上げられて、理緒は何が起こったのかを理解するのに数秒ほど要した。