第3章 合縁奇縁
「そうだ!」
ぽんっと手を打った炭治郎は、とても明るく提言する。
「俺の背中に文字を書けばいい!……って、どうして真顔なんだ?」
その手があったか!と笑顔になればよかったのだろうか。
逃げるチャンスを失い、残念に思っているだけである。
炭治郎は何の気なしに理緒の隣に座ったが、それでは背中に文字が書きにくかろうと少し前に座り直した。
振り返り理緒を見て「何でも言ってくれ」と笑いかける。前を向き、目をつぶって、背中に神経を集中させた。
理緒は炭治郎の少し大きな背中に、男子なのだと意識をしてしまった。どぎまぎしながら指をゆっくりと滑らせる。
かける言葉は決まっていた。
一文字書くたびに、炭治郎が読み上げる。
「か、え、れ」
『かえれ』
と理緒は炭治郎を突き放す。
それ以上、文字を書く様子がないとわかると、炭治郎はくるりと振り向き彼女を見る。
「帰れって、教室にか?」
その問いかけに、こくりと理緒は頷く。
「なら、一緒に帰るぞ」
理緒は、ぱちくりと瞬きをした。
どうして、そうなるんだ。
「何を怒っているんだ?」
顔に出ていたのか、感情を読み取られ、居心地の悪さを感じて目を逸らす。
「言いたいことがあるなら、書けばいい」
そう言って、炭治郎はまた背中を向ける。
『いっしょにかえらない』
「どうして?」
『ひとりでかえって』
「一緒にって言っただろ」
『ひとりで』
「一緒にだ!」
『ひとり』
「一緒!!」
押し問答が繰り広げられていたが、全く譲らない炭治郎に、諦めて理緒は話題を変えることにした。