第3章 合縁奇縁
屋上へと続く階段をのぼる。
屋上の扉は安全のために、鍵がかかっている。
開かない扉に用はない。それ故に、人が訪れることのない場所になるのである。
それは前の学校で学んでいた。
念のために扉が閉ざされていることを確認してから、扉を背もたれにして座り込む。
深い溜め息を吐くと、理緒の声を代弁するかのようにチャイムが鳴った。
休み時間が終わってしまった。
教室へ戻るに戻れない理緒は、一先ずここでやり過ごすことに決めた。
初日から、授業をすっぽかすだなんて最悪だ。
自己嫌悪に陥りながら、膝を抱えて顔を伏せた。
突発的に出てきてしまった。
明らかに、不審な行動だった。
……けれど、これで敬遠されるはずだ。
みんな、放っておいてくれるはず──
「こんなところにいたのか」
突然降ってきた声に、心臓が跳び跳ねた。
理緒は勢いよく顔をあげる。
目の前には、炭治郎がいた。
声をかけられるまで全く気がつかなかった。
なんで、と口をぱくぱくと動かすも、声はまるで出ない。
察したらしい炭治郎は、平然と告げる。
「俺は鼻がいいんだ。においを辿って来た」
真性の変態か何かだろうか。
驚きのあまり、理緒は口の中だけで罵倒した。
「どうしたんだ?」
と、炭治郎が首を傾げるのに対して、彼女は首を振る。
いや、言いたいことは色々ある。
しかし、筆談に必要な紙とペンは、教室に置いてけぼりにしてきたのだった。
そこには、早急に合点がいったようで、
「ああ、そうか。筆談じゃないといけないんだったな」
と、困ったな……と唸る。
筆談道具を取りに行ってくれれば、その隙に移動しよう。
においを辿って来たなんて、半信半疑な理緒はそう考えていた。