第3章 合縁奇縁
休み時間となり、気もそぞろだった者たちが一人、また一人と理緒の周りに集まる。
興味津々で注がれる、たくさんの視線が煩わしい。
誰かと仲良くなりたくて、学校を変えたわけじゃない。ただ、何も知らずに放っておいてほしいだけだ。
「ねえねえ、天春さん!」
話しかけてくる群れに、筆談用のメモ帳とペンを取り出した。会話は必要最低限にしたい。
「どこから来たの?」
理緒は、たった一言、書き記す。
『知らない』
「え?知らないって、何それ」
「なになに、記憶喪失?」
茶化すような質問に、先程書いた文字をペン先で叩く。
『知らない』
顔を見合わせ困惑しているようだが、理緒は構わない。
気を取り直した誰かが、また尋ねる。
「どこ住んでるの?」
理緒はまたペン先で文字を叩く。
『知らない』
それからいくつか質問が続いたが、全て『知らない』の一点張りで通した。
「どうして、知らないばっかりなの」
「何も答えたくないんだって」
そう、何も答えたくない。わかったなら、早くどこかへ行って。
「そもそもさぁ、なんで筆談なの?」
その疑問に理緒は無意識に唇を噛み締めた。
拳を固く握って立ち上がり、呆気にとられる周りを無視して教室を飛び出した。
突然の行動に、周囲はどよめく。
しかし、それを気にする余裕はない。
あと少しで、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。