第3章 合縁奇縁
「炭治郎、頼むぞ」
何を頼んだのかわからないが、冨岡先生はそういうと教室を後にした。
入れ違いで、数学教師の不死川が教壇に立つ。
鋭い瞳に、顔には大きな傷がある。襟元が開いたシャツから露出した肌にも傷が見える。
教師、というより歴戦を勝ち抜いてきた戦士のようである。強面な外見から理緒はそんな感想を抱いた。
「授業を始める」
人を見た目で判断してはいけない。
それは当たり前の話──なのだが、教えるのがとんでもなく上手いことに、理緒は度肝を抜かれていた。
それに加えて、授業の進行ペースが驚異的だ。
方程式をひたすらに解き、不死川先生の話を聞き洩らさないようにしながらノートを取る。
進学校から転入してきた理緒でさえ、ついていくのがやっとであった。
息つく暇もなく、授業が終わる。
こんなハイレベルな授業を受けているこの学園の生徒は、さぞ優秀なのだろうと、理緒は感心した。
しかし、遅れをとらないように必死で理緒は気づいていなかった。
そのスピードに食らいつくことができず、ほとんどの生徒は途中で脱落していたことに。
そして、もう一つの事実を今はまだ知らない。
これほど真っ当な授業をする教師は、この学園においては不死川先生、ただ一人であることを。