第15章 雨降って地固まる
*轟side
「....どうしてお前が泣くんだ」
『泣いてない』
「泣いてるだろ」
『泣いてないってば』
「....そうだな」
リョウは、柄にもなく無愛想な口調でそっぽを向いた。
長いまつ毛が、涙で濡れている。
『...ごめん』
「?」
『私、勝手に焦凍のことを理解したつもりでいたけど、全然なにも知らなかったんだね...。
どんな人生を送ってきたかとか、普段考えてることとか、悩んでることとか。
体育祭の前だって、そんなに思いつめてることなんか、全く気付かなかったよ。
それどころか、避けられてるとか、自分のことしか考えてなくて..』
「...リョウ」
『大事な人のことすら、何も見えてなかった自分があまりにも情けなくて、腹が立つよ...』
ごめんね、と小さく呟くリョウの頬には、大粒の涙が伝っていた。
どんな言葉をかけるのが最善なのだろうか。
こんなときに気の利いたことを言ってやれるほど、今までの人生で、俺は他人と関わってこなかったというのに。
夕日に照らされたリョウの横顔は、光が涙に反射して、とても綺麗だ。
何か声をかけなければ──そう思って口を開いたのに、
その美しさに見惚れてしまい、何も言葉を紡ぐことができなかった。
本当に、つくづく理解できない。
傍若無人で天真爛漫、無茶苦茶だけど、そこにいるだけで世界を輝かせるような、誰からも好かれるこいつが、俺なんかのために、こんなにも感情を乱して、こんなにも綺麗な涙を流している。
俺は、そんな暖かいものや、美しいものに値する人間ではないのに。