第13章 職場体験
『さて………と、』
ウチは彼に個性がバレてると言った。それには理由がある。
ただのヴィランなら体育祭に出てる出久達の個性を知ってると思う。
けど、ウチは体育祭序盤で倒れて、そこまで個性は知られていない筈だ。
それなのに、焦凍を守ろうと個性を発動させようとした時、まるでそれを防ぐようにナイフを投げられた。
つまり、ステインはウチの個性を知っていたという訳だ。
それは何故か。答えは簡単だ。
“ウチ”は彼に会ったことがある。
いや、正確には……
“私”は彼に会ったことがある。
『お久しぶりですね。主、……いえ、赤黒様。』
ス「……やはり、お前だったか。………“殺夜”」
殺夜……、殺めるに夜と書いて“アヤ”という名前。
ウチが鼎姉に会う、ずっと前。“私”を拾ってきた主の中の一人。それが、赤黒様だった。
赤黒様は“私”が会ってきた主の中で唯一、何も命令せず、私に何も望まなかった、変わり者だった。
今思えばあの時、彼は“人形”としてでは無く、一人の“私”として接してくれたんだと思う。