第10章 星月夜の罪穢
※シリアス。流血表現を含みますのでご注意ください。
星明かりがあなたを照らした時、不覚にも僕は。
「…なかなかの腕前ですね、蛍さん。」
「あなたこそ。」
蛍さん。僕の首を狙って現れた剣客。
綺麗。それでいて強い人。
でも僕には敵わないかもしれません。
けれど…
「あ……!」
「…」
彼女の刀がその白い手から零れ落ちる。姿勢を崩し倒れ込んだ蛍さん。
地についたその右手を踏みつけ、喉元に刀を突きつけた。
「…!」
「…勝負ありってところかな?結構楽しかったですよ。」
「……」
肌を僅かに突き刺した切っ先から滴る血。それにも関わらずこちらをまっすぐ見据える強い眼差し。
「…殺して。」
「……」
…好きだなぁ、そういう表情。
「斬って捨て置いてくれて構わないわ。」
「…敵に情けをかけられるなんてもってのほか、というわけですか?」
「ええ…」
「そういう考えは甘いですよ。」
そんな、勿体ないこと。せっかく勝ったのにそんな勿体ないことはしませんよ。
彼女と視線の高さを揃えるように、しゃがみ込む。
そして刀をしまい、顎に手を添えてこちらを向けさせた。
「!何を…?」
「綺麗ですね。」
「……!?」
初めて瞳に浮かんだ、戸惑いの色。
さっきまでの強気もよかったけれど、不安が差した表情もまた。
「…!」
滑らかな肌に手を滑らせ、目尻辺りに触れると僅かに顔を引き攣らせた。
「ああ、目を潰されると思いましたか?」
ゆっくりと目元をなぞり上げる。
「…馬鹿にして…!」
「冗談ですよ、冗談。傷つけたりなんてしませんよ…こんなに綺麗なのに。」