第9章 つつましやかな愛寵
優しい声とその温もりに、先程から高まりつつあった胸の鼓動がまた速まるのを感じて蛍は居たたまれなくなる。
「すみません、疲れてるだろうなとは思ったんですけど、あなたを一目見たくて…」
「あ、あの、瀬田様…」
「…今は二人きり…でしょ?」
「…はい…」
「僕の名前、呼んでほしいなぁ。」
間近に顔を寄せられにっこりと囁かれる。
ふわりと力が抜けて穏やかだけれども期待でうっすらと熱を帯びた眼差しで見つめられ、蛍はまだ少し強張っていた腕をそっと宗次郎の身体に寄せた。
「…宗次郎さん。」
「ん、よく出来ました。」
あやすように囁かれて、全身がかっと熱くなるような感覚。
「宗次郎さん、その…」
「何か?」
「…いえ。」
恥ずかしい、照れてしまう。
逃げ出したいくらい恥ずかしいけれども、嬉しい。
こちらを見つめる瞳を受けて、口許を思わず嬉しさで緩ませながら。
彼への愛しの想いを込めて、言葉を繋いだ。
「…ただいま、宗次郎さん。」
「おかえりなさい、蛍。」
つつましやかな愛寵
(さり気なくだけど深く)