第6章 Anthurium
「…?なんですか。」
「今だけいい…?」
反射的に蛍さんの方に向き直ると……腕に少しの重みと、あったかい感触。
「…えっ。」
「…変ね。ちょっとだけこうしたくなっちゃったの…」
髪に隠れて表情が伺えないものの、覗いた瞳は恥ずかしげに潤んでいて。──かああ、と頬が熱くなる。
蛍さんに抱きつかれていた。
「っ、なんですか、それ…」
「…お返し?」
「……」
「宗次郎のが遷ったのかな…?大人でいようと思ってたけど…積極的に甘えてくれる宗次郎が…たまらなくって…」
熱のこもった眼で見上げられる。
「たまには、私からも。」
「…あの、えっと…」
「…宗次郎、困ってる?」
「……えっと、その…どうすればいいのか……」
まさか、蛍さんからだなんて…
思い掛けず瞳を逸らすも…紅潮した顔は隠せそうにもない。向き直って正直に告げると…
「嬉しくて、困ってます…」
「…もう。離れられなくなっちゃうじゃない…」
悪戯っぽく微笑まれ…
たまらなくて、もう一方の手を蛍さんの背に…そして流れるように、蛍さんを胸の中に抱き止めていた。
Anthurium
(アンスリウム 恋にもだえる心)