第6章 Anthurium
衝動を抑え込みながら出来るだけ落ち着いた調子でそう告げた。そして、そっと触れると…ふんわりと繋がれた。
──暖かい。思わず溜め息を吐きそうになる。柔らかい蛍さんの手。
「…拗ねちゃった…?」
控えめに尋ねられる。
「いいえ、まさか……でも、ドキドキしちゃって……どうしたらいいか。」
「…可愛い。」
「え?」
頭が真っ白になる。柔らかな微笑みをまっすぐ向けられ、胸の鼓動が早くなる。
「……好きよ、宗次郎。」
(……それがいけないんですってば。)
平静を装おうとしても、やっぱり…揚がってしまうのが本音で。満更でもない様子どころか、狼狽える様子が伝わってしまいそうで。
──そんな僕の胸中を知ってか、知らずか。彼女の細い指先は優しく絡み付き…僕もそれに応える。どちらともなくしっとりと熱を持っていく手のひら。
「……つい、言っちゃった。」
「そうですか。」
「宗次郎には…恥ずかしいって言っておきながら。ごめんね…」
「いえ…僕は別に…」
言葉を濁らせる。
むしろ、もっと…そういうところ、見せてほしい。そう思ったんだけどな…。蛍さんに嫌だと思われたくないし、こうして甘えられて。思い掛けない幸せな気持ちを貰った。だから今日はこれで。
「…嬉しいです。」
「そっか…」
そよ風のように柔らかな時の中で。彼女もまた嬉しそうに仄かに頰を染めた。
──やっぱり、いいな。
あったかい気持ちになる。触れたいあまりに歯痒かったりほとばしりそうになったりはするけれども。でも、愛おしい彼女はそんな僕を……恥ずかしがってはいるけれど、優しく受け入れてくれて。
僕も、大人になりたい。蛍さんに見合うように。蛍さんに頼られるように…
「…ね、宗次郎…」
そんなことを考えていると、躊躇いがちに呼ばれた。振り向くとこちらを覗いてる蛍さんの瞳とぶつかる。