第6章 Anthurium
※ヒロインは少し年上の設定です。
その綺麗な髪や、白い肌…黒い瞳。
「…蛍さん。」
綺麗な声に優しい笑顔…そして、ちょっと困ったような表情でさえも。
「きゃっ。」
すべて、愛おしい。
そう思うのは…
「…ちょっと、宗次郎…」
「…どうかしました?」
「いきなり抱き付かないで…」
そう思うのは…重荷ですか?
──僕の恋人、蛍さんは。
「びっくりするじゃない…」
「だって…蛍さん見てるとつい触れたくなってしまいまして。」
蛍さんは…なかなか、こちらになびかない。何というか、大人だ。たしかに僕より少しだけ年上だけど。
後ろから抱きしめられたものの、そっとその腕を持ち上げて振り向く。肩の辺りに手のひらを軽く押さえつけるように宛がわれ、諭すように微笑まれる。
別に気を悪くさせたわけではない。そのことは知っている。彼女が困りながら諫めるのは。
「……」
「…悪気があるわけではないですよ?だけど…」
「ごめんね、どうしても…」
“気恥ずかしくて”
頰を僅かに朱に染めながらそう囁かれた。そんな風に言われると何も手出しが出来なくなるものの…一連の仕草や表情がまた、僕のことを火照らせていく。胸が締め付けられるように苦しい。
「ここ、往来だから…」
「人は見当たりませんよ?」
「でも、やっぱり外では…ね?」
「…ふふっ、心配性だなぁ。」
肩に添えられた手。手にとって、そのままくちづけたりしたいけど…優しく解放した。触れたところが傷を負った患部のように熱くなり、やがてそれは冷めていく。
「でも。」
「?」
「私だって宗次郎のこと、大事なのは一緒だから…」
「…!」
「ね…?時と場所は弁えて。」
優しく微笑まれた。…わかっている。わかっているのだけれども。少しでも、蛍さんに近づきたい。傍にいたい、ずっと蛍さんのこと見ていたい。
「…じゃあ、蛍さん。」
「はい。」
「…手を繋いでいいですか。」
…僕が触れてもいいって、蛍さんからの確証を得ていたい。