第2章 ◇1話◇鏡に映る知らない彼女
「え…?なんで…?」
鏡の中の私が、泣いている。
買ったばかりの可愛いロングワンピースに、そろそろ切った方がいいかなと思っていた長い髪。
鏡の中にいる私は、私の知っている私のはずなのに、ここにいる私を真似するつもりなんて全くないみたいだった。
形づくるすべてが見覚えのある私なのに、鏡に映る彼女は、私の知らない誰かに違いなかった。
だって、私は、そんなに悲しい表情を見たことがない。
そんなに傷ついた、そんなに憂いを帯びた、そんなに誰かを愛してると叫ぶような表情をしたことなんか、なくてー。
私の知らない私は、ただただ懇願するー。
≪あの人を助けて…。≫
彼女の手が私に伸びる。
鏡の中から現れた青いくらいに白い手は、氷のように冷たかった。
私の手首を掴んだ彼女に、強く引っ張られた。
いつから意識が飛んだのかも分からない。
≪そして、あの人に伝えてー。≫
ただずっと、頭の中に聞き覚えのある声が響き続けていた。