第3章 ◇2話◇帰ってきた天使
古城を改装した旧調査兵団本部は、もう随分と長い間誰にも使われていなかったこともあって、荒れ放題だった。
すぐにリヴァイの指示によって掃除が始まり、調査兵達は日々の訓練で疲れた身体に鞭を打って、箒や雑巾を持つ手を動かしている。
「リヴァイ兵長、そんなに強く窓磨いたら…、あァ!!
ほら、やっぱり。窓割れちゃった…。」
「…チッ。おい、オルオ、新しい窓ガラス持って来い。」
「はい!」
雑草抜きを命じられていた調査兵達は、上から聞こえてきたリヴァイ班の精鋭達の声に、視線を上げた。
旧調査兵団本部に遠征に来ているのは、突如現れた巨人化出来る人間のエレン・イェーガーと彼を守るために集められた精鋭兵達からなるリヴァイ班の他に、捕獲した2体の巨人の実験を担当するハンジ班をはじめとした数名の調査兵達だった。
主に実験の軸を担当するハンジ班の補佐として旧調査兵団本部にやってきていた調査兵達は、自分達の視線の上で、窓枠に新しい窓ガラスをはめようとしているリヴァイ班のメンバーを見ながら、何とも言えない気持ちになる。
「リヴァイ兵長ってやっぱり人の心がねぇんだなって、
今回本気で思ったよ。」
「本当だよな。あの巨人化出来る訓練兵を守るために
自分の恋人が巨人に食われて死んだってのに、よく平気でいられるよな。」
「この間の壁外調査から帰ったら結婚するはずだったんだろ?
普通なら発狂もんだぜ。」
「遺体はバラバラで見るも無残だったって話だ。
家族すら遺体に会わせてもらえなかったんだってよ。」
「俺の彼女があの巨人化出来る小僧のせいでそんなことになったら、
顔も見たくねぇくらい憎むし、任務でも守ろうなんて思えねぇよ。」
「それどころか、葬儀にも出ねぇで、巨人小僧に会いにストヘス区行ってたらしいぜ。」
「うわぁ…、婚約者の彼女も可哀想だな。」
雑草抜きをしているはずの手を動かさず、口を動かしていた彼らの元にハンジがやって来た。
そして、私語はやめなさいと注意されてしまい、漸く彼らは雑草抜きに集中し始めた。