第2章 ◇1話◇鏡に映る知らない彼女
全身鏡の前に立った私は、踝まである長いワンピースを両手で少し摘まんで持ち上げて、ご機嫌に裾を躍らせる。
会社帰りに寄ったショップで、可愛い部屋着を見つけた。
柔らかい生地の白いロングワンピース。
やっぱり、動く度に白いレースがヒラヒラ揺れて可愛い。
お風呂にも入って、メイクも落として、寝る準備は終わってある。
そして、ドラマまで後5分。
テレビの向こうにいるイケメン俳優が見てくれるわけではないのは理解してはいるけれど、最終話の彼に可愛い部屋着を見せられると、私はルンルンだ。
「ん?」
ふと、鏡の中に映る自分が泣いているように見えた。
自分の頬に触れてみるが、当然濡れていない。
鏡に映る自分も、不思議そうに頬に触れているだけだ。
見間違いだったのだろう。
私はまたワンピースを持ち上げて、裾を躍らせた。
≪ーーー。≫
何処からか声がした気がして、私は顔を上げた。
また誰かが部屋に侵入したのかと警戒しながら、視線だけを動かして異常を探す。
でも、そう言えば聞こえてきたのは女の声だった気がする。
それにどこかで聞いたことのあるようなー。
そこで私は、もうすぐドラマが始まるからとテレビをつけていたことに気づく。
きっとテレビの中で女性タレントか誰かが喋ったのだろう。
歌番組でずっと歌が流れていたから、トークが始まって勘違いをしたようだ。
あの日のストーカー男のことは、私の中で大きな傷になっていることは確かだった。
友人達の前では笑いに変えることは出来るけれど、本当はトラウマとして残っていて、ほんの少しの物音にも怯えるような日々を続けている。
深いため息をついた私は、テレビ前のソファに座るために全身鏡に背を向けた。
≪待って、お願いー。≫
後ろから、誰かに呼び止められた。
やっぱり、聞き覚えのある声だった。
慌てて振り返った私に見えたのは、鏡に映る怯えたような私の顔だった。
部屋を見渡すけれど、やっぱり、誰もいない。
トラウマからから恐怖で、幻聴を聞いてしまったのだろうか。
≪お願い、私の代わりにあの人を助けてあげてー。≫
でもやっぱり、声がする。
その声がしたのが、鏡の中からだと思った私は、リコやイアンの言う通り、頭が悪いのかもしれない。
でもー。