第11章 ◇10話◇逃がさない
空が真っ赤に染まりだした頃、リヴァイは漸く旧調査兵団本部に戻ってきた。
長距離索敵陣形や連帯強化の訓練、エレンの巨人化についての確認等することは幾らでもある。
他に気になることがあろうとも、そんなことしてる場合じゃないと心が叫んでも、兵士長という肩書が消えるわけではない。
部下の命を預かっているという立場が、なくなるわけじゃない。
兵士という仕事が、こんなにも心を擦り減らすものだと思い知るのは、ファーランとイザベルが死んだあの日以来だ。
あれからすぐにに出逢って、少しずつ、自分の未来というものを信じられるようになっていたのにー。
早くに会いたくて、生きていることを確かめたくて、自室へと向かうリヴァイの足は無意識に速くなる。
「何やってんだ。」
自室の前にニファが立っているのに気づいて、リヴァイは訝し気に訊ねる。
慌てて敬礼をした彼女は、が部屋から出ないように見張っていたと答えた。
確かに、今のは記憶喪失で、自分達のことを恐怖の対象として見ている。
だから、見張っていないと部屋から逃げてしまうかもしれないとは思っていた。
でも、明らかにそんな態度を見せれば怖がらせるだけだと思って、よく読んでいた本まで渡して、何も言わずに部屋に鍵をかけたのだ。
だから、逃げるわけなんか、ないー。
それなのに、ひどく嫌な予感がしたー。
見張りをしていたのがハンジの班員だったから、余計に不安を煽られる。
「何も余計なことはしてねぇだろうな。」
「…えっと…っ。ハンジ分隊長が…、巨人を見せてしまって…。
そしたら、気絶しー。」
最後まで聞く気も失せた。
最悪だー!絶対に、あれだけは見せたくなかったのにー!
リヴァイは焦ったように扉に鍵をさす。
すぐに鍵があき、勢いよく扉を開く。
その瞬間、冷たい風が吹いてリヴァイとニファの髪を靡かせた。
執務室の開いた窓で、白いカーテンが、あの日のが着ていた白いワンピースのようにユラユラと揺れている。
外の声が聞こえないようにと思って、窓は閉めていたはずだ。
それがどうして、開いているー。