第10章 ◇9話◇逃げたい
目が覚めると、見覚えのある寝室のベッドの上にいた。
でも、ここは私の知っている部屋じゃない。
リヴァイの寝室で、意味の分からない恐怖が始まった場所だ。
大きな身体とギョロギョロした4つの目を思い出して、私は震えながら自分を抱きしめた。
(あれ…、なに…?…巨人?そんなもの、本当にいるわけ…。)
自分で見たものが、現実だなんて思えない。思いたくない。
あれはただの悪夢に違いないー。
必死に頭の中でそう繰り返す。
でも、蘇る恐怖と瞼の裏に残像として残る恐ろしい光景が、あれがお前の現実だと私を今以上の恐怖のどん底に落とそうとしてくる。
もういやだー。
こんなところ、いたくないー。
より一層、家に帰りたい気持ちが強くなる。
ベッドから降りた私は、寝室を出た。
執務室には誰もいなくて、リヴァイは夕方に帰ってくると言っていたのを思い出す。
窓の外を見れば、少しずつ空が赤くなろうとしていた。
もうすぐリヴァイが帰ってくる。
あの男が帰ってきたらきっと、また私から離れてくれない。
そしたらもう逃げられない。
きっと今がチャンスだ。
「ニファ、リヴァイ兵長の執務室の前で何やってんだ?」
執務室の扉を開けようとした私は、すぐそこで人の声が聞こえて動きを止めた。
声をかけられたらしい女性は、私が勝手に部屋から出ないように見張っているのだと答える。
「鍵もかけてあるから、何処にも逃げられないとは思うんだけどね。
何かあったときのためにここにいてくれってハンジ分隊長に頼まれちゃって。」
女性の言った言葉にハッとする。
鍵をかけられているなんて、思いつきもしなかった。
でも、リヴァイから、部屋から出るなと言われていたし、最初から鍵をかけて私を閉じ込めていたのだろう。
巨人なんかがいる恐ろしい場所にー。