第7章 ◇6話◇モノクロの世界で愛される彼女
「どう?なにか思い出す?」
ハンジに訊ねられて、私は首を横に振る。
なにか思い出すかもしれないから、というエルヴィンの指示でやってきたのだけれど、その期待には絶対に応えられない。
だって、私は記憶喪失ではないということだけは言い切れるのだ。
それなのにー。
そろそろ、私も少しずつ、何かがおかしいことに気づき始めている。
これは、私が思ったような、妄想甚だしい男達が企てた誘拐ではないのかもしれない。
たった1人の普通のOLを誘拐するためだけに、街全体で騙すような大掛かりなことをするわけがない。
でもー。
どこからか掃除用具を引っ張り出してきたらしいリヴァイが、三角巾を頭につけて、掃除を始め出す。
呆れた様子のハンジとモブリットにも手伝わせだしたので、私は寝室に入ってみることにした。
1人暮らしなのに、ダブルベッドが置いてあるせいで、部屋が少し狭く感じた。
ここに住んでいた女性には恋人がいて、それが合鍵を持っていたリヴァイだというのは本当なのだろう。
でも、それは私じゃない。絶対に、違う。
それなのに、ベッド脇の棚の上に置いてある写真立てを思わず手に取ってしまった。
「これ…。」
モノクロのその写真の中で、恋人達が見つめ合っている。
恋人の髪を耳にかけてやっているのはリヴァイで、そんな彼を愛おしそうに見つめているのは、私に違いなかった。