第4章 ◇3話◇混乱
名前を教えてやる気はなかった私だったけれど、既に主犯の男にはバレているし、そもそも誘拐犯達に視線を向けられて、それでも抵抗できるほどの心の強さも頭の悪さもなかった。
「…。」
私が名前を告げた後の反応は、主犯の男と眼鏡の人達で真っ二つに分かれた。
主犯の男は心底ホッとしたように息を吐いて、眼鏡の人達は幽霊でも見たみたいに顔色を青くした。
「どういうことだよっ!俺、何か変な夢でも見てんのか!?」
「私だって分かんないよ。どうして…っ。」
「ちょっと待ってくれ…。整理しよう。
そこにいるのはさんで、記憶喪失だから、俺達に怯えてるってこと?」
「いや待て。そもそもさんが生きていたというのはどういうことだ。
それに空から…、あぁ、それは死んだから空から…。
ダメだ、意味が分からない。」
ソファの後ろに立っている若い人達はお互いに顔を見合わせながら、意味の分からないことを言いだした。
もう本当に、ただのOLを誘拐しようとする人達の頭は理解に苦しむ。
本当に、早く帰りたい。
ドラマが、見たいー。
そもそも今は何時なのだろう。時計もないから分からない。
枕の代わりにクッションを盾にして抱きしめていると、眼鏡の人が意味の分からないことを訊ねてきた。
「ねぇ、。本当に私達のこと覚えてないの?」
「…会ったこともないでしょう。もう…、やめてよ…。」
私はクッションをギュッと抱きしめる。
彼らは、誘拐犯の上にストーカーの素質があるらしい。
私と知り合いでいるつもりだから、平気で私を誘拐できたのだろうか。
いやそもそも、知り合いだって勝手に部屋から誘拐するなんてー。