第4章 ◇3話◇混乱
家に帰してくれと繰り返す私に、眼鏡の人はとにかく話をしようと繰り返した。
誘拐の主犯だと思われる目つきの悪い小さい男よりは、幾らかは信頼できそうな人ではあったけれど、そもそも誘拐犯である時点で頭がおかしい人決定なのだ。
何も怖いことはしないからー、と言う説得なんて全く信じられない。
それでも、あまりにも抵抗しすぎて逆切れさせても怖い。
仕方なく、とにかく近寄らないことを条件にして、隣の部屋に移動することを許可した。
誘拐犯のくせに、隣の部屋は執務室なのだそうだ。
とても立派な部屋で驚いた。
条件を守ってくれた彼らは、私を1人でソファに座らせてくれた。
向かい合うソファに腰を降ろしたのは、主犯の男と眼鏡の人、そして、おっとりした雰囲気の金髪の男の人だった。
可愛らしい女性も含めた若い4人は、そのソファの後ろに立って話に参加するようだ。
最初に口を開いたのは、眼鏡の人だった。
「えーっと…、君の名前を聞かせてくれる?」
どうして誘拐犯に名前を教えないといけないのか。
そもそも、名前も知らずに誘拐したのだろうか。
名前を知らないなら知らないままでいてほしくて、私は口を噤むことに決めたのだが、どちらにしろ、私が答えようとしたところで、主犯の男が苛立った様子で眼鏡の人に文句を言う方が早かったと思う。
「に決まってんだろ。意味わかんねぇこと聞くんじゃねぇ。」
主犯の男はとても怒っていた。
イライラが伝わってきて、怖い。
何より、名前を知られていることが怖い。
普通に、いつもそう呼んでいるみたいに、私の名前を口にする男が怖い。気持ち悪い。
「リヴァイ、私は彼女に聞いてるんだよ。
記憶喪失なんだろう?自分の名前も分からないのかどうかも確かめなきゃ。」
「…チッ。」
眼鏡の人に説得されて、とりあえず主犯の男は舌打ちに留めて口を閉ざした。
そうなると、誘拐犯たちの視線が私に集中する。