第1章 鬼に成りし者と
「本当に失礼だけど、聞いていい?」
淳一の言葉に、無一郎は顔を歪ませた。そして、淳一は言う。
「何で、君はこんなことをしているんだ?多分、それしか生きてる意味を見出だせないからだよね?俺は、君みたいな人がそんな危険なことをする必要はないと思う」
淳一の言葉に、無一郎は顔を強張らせた。
「うるさい!何も知らないんだ!覚えていられないんだ!自分のことも過去も覚えられない、無能な人間なんだから仕方ないんだよ!」
無一郎の言葉に、花怜はとある言葉を思い出した。
“無一郎の無は、無能の無”
淳一はゆっくりと近付き、叫び疲れた無一郎の頭を撫でて微笑んだ。
「そんなことない。君は無能なんかじゃない。君はきっと強いよ。鬼に立ち向かおうとする勇気があって強くて、俺はすごいと思うよ」
「そんな、そんなわけない……」
無一郎は、淳一の優しい言葉を否定した。
「ねぇ、君は知ってるかい?“天才は有限”、“努力は無限”って言葉」
無一郎はその問いには答えられなかった。きっと、知らないのだろう。
「君はたくさんの努力を積み重ねてこうなったんじゃないのか?」
無一郎は淳一の言葉にハッとさせられた。
「僕、記憶が無いんだ……」