第5章 藤の屋敷
花怜が風呂から戻ってくるのを、淳一は部屋で待っていた。
この世界はとても面白いが、鬼というポジションが辛い。
早く元の世界に戻りたい。
生徒の前で授業がしたいんだ。
好きになっちゃダメなのかな?君のこと……。
俺は好きになってしまった。妻も子供が居るのに、必死に頑張っている君の姿に惚れてしまったんだ。
決して結ばれることがない恋をしてしまったんだ。
彼女の血を飲んだ時、美味しくて、それが悲しくて、涙が溢れてきたよ。
せめてこの世界では、幸せに居れたら良いと思う。
お互いに同じようなことを想っているなど、二人は知る由もなかった。
そんな時、花怜が風呂から上がって戻ってきた。
「先生、寝ましょうか」
「ああ、そうだな」
二人はそれぞれの布団に入った。しかし、すぐには眠れず、寝返りを打って顔を見合わせた。
「花怜……布団に入るか?」
唐突にそんなことを言われ、花怜は戸惑った。
「本当に、良いんですか?」
食べたい衝動に駆られてしまうのでは、花怜は不安を感じていた。
「俺は大丈夫。ほら、おいで」
花怜はゆっくりと、淳一の布団の中に入った。すると、中で抱き締められた。
それはとても温かくて、心地が良かった。
二人は幸せそうな顔を浮かべ、ゆっくりと眠りに落ちた。