第3章 ③新門紅丸 甘
「俺は嬉しいがな。二人がようやく一緒になって」
紺炉さん、本当にご心配からご迷惑からその他諸々と申し訳ありませんでした。
聞く話によると、若が私を好きだったのはだいぶ前だそうだ。私が学生時代に一度連れ去られた事があった。特に怪我をしたわけでも何かされたわけでもなかった。ただひたすらに、連れ回されたのである。道がわからないから、と教えていたらそんなことになってしまって…
この世界、世知辛いなぁ。なんて、他人事のように思っていた。
若は、その時あり得ない程発狂して相手を殴り殺さん勢いだった。他の火消しの人達が束になって止めてた。
それがきっかけで、若は私に過保護になった。なんて言うか、兄が妹を心配する感じ?かな。
兄がいないからわからないけど…
それの元を正せば、私の事を好きなのだと若が気づいたのは、その事件のあとに紺炉さんと話してて若が自覚したらしい。
それって何年前ですか?
そんな前から私を好きだったなんて、私は本当に鈍いんだろうな。
『では、いってきますね』
「あぁ、頼む」
振り返り、第七の暖簾から出たところで、
「…おい」
『っ!?…びっくりした』
紅が腕を組んで壁に寄りかかって待っていた。
『…若、どうしたんですか?』
「…………買い出しだろ?いくぞ」
『え!?出てきちゃって大丈夫なんですか!?』
なんて言葉を聞くはずもない若が、スタスタと歩いて先を進んでいく。
「いい加減、名前で呼べ」
これが最近のパターンだ。
『そんなことを言っても、若以外になんとお呼びすればいいんですか?』
「…ちっ」
『今、舌打ちしたでしょ。そんな事をされてるうちは、絶対に呼びませんから』
と、結構私も頑固であるが故に名前で呼ぶ事ができない。
「…」
『何ですか?あ、買い出しの荷物お願いしますね』
「…、こっち向け」
『はいはい。なんですか?』