第10章 ⑩相模屋紺炉 切甘
我慢出来なかった。目の前で触れてくれと言っている、このが俺を知らねェであっても…何も変わらない唇の感触。それに、最初は覚束なく唇を合わせていたのに舌で歯茎をなぞるとおずおずと舌を出してきた。そう教えた。俺が。出してきた舌を吸い取り、深く口付けた。そうしているうちに、肩を叩かれて苦しいという事か、と慌てて離した。
「す、すまねェ」
『…いえ』
はさっきまで合わせていた唇を指で触っている。あぁ、こういうのがもの欲しい顔ってんだな。と思った。
『あ……あの』
「ん?」
『もっと…シて、くれませんか?"あなた"』
その言葉に確信した。記憶が…
『思い出しました。あなたが私の旦那さまであること。本当に申し訳ありませんでした』
もうそんな事はどうでも良かった。抱きしめて腕の中に閉じ込めた。も腕をまわしてくれて、やっと実感した。戻ってきた。
「本当に…っ、」
『まさか、自分がこんなことになるなんて思ってもみなくて…ご心配をおかけしました』
「いいんだ。記憶が戻ってよかった。他に痛ェところはねェか?」
『あ、ありません』
「よかった!」
これからも、が隣にいてくれる。それだけで、幸せなンだな。
「これからも、俺の隣にいてくれるかい?」
『もちろんです。私をお側に』
(姉さんの記憶が戻ったって!?)
(邪魔だ、紺炉!)
(あら、ヒナタにヒカゲ。ごめんなさいね、心配かけて)
((うわぁぁぁ!!))
(よしよし、今日は一緒に寝ましょうね)
(え、この流れで…?)