第10章 ⑩相模屋紺炉 切甘
その日、当たり前だと思っていた毎日が突然姿を消した。
「えっと…どちらさまでしょうか?」
一瞬、肝が小さくなったような気さえした。
手伝いをしていたが頭を打ち、倒れたと飛びの一人が走って知らせに来た。のところに急いだ。息を切らして着いてみれば、本人はケロリとして話している。よかった。無事だったのか。と思ったのも束の間。
最初の場面になるのである。
「…おい、何言って、」
『そんなに息を切して、どうしたんですか?』
「姉さん、何言ってるんだ?」「紺炉さんだろ?」いずれの仲間の言葉にも、反応を見せることなくこちらを疑っている。
「…覚えて…ねェのか?」
『何をですか?』
冗談とかそんなので言ってるわけではない。紺炉の目の前が真っ暗になった。立っているのがやっとな紺炉は、一度外に出た。
外にある椅子に腰掛けて、頭を抱えた。
どうしてこうなった。何で俺だけ忘れていやがンだ。
色んな疑問が浮かんでは消えた。しばらくすると、紅が出てきた。
「紺炉」
「紅!はどうしちまったんだ」
「落ち着け。一時的な記憶喪失だと言ってた」
「…は?」
きおく…そうしつ?
つまり、頭に衝撃を受けて記憶が飛んだ?
「一時的だから、そのうち戻ると言ってたが…いつ、戻るかは、わからねェらしい」
絶望した。あんなに毎日俺を温かく迎えてくれたがいない。だが、記憶が戻るなら…