第9章 ⑨相模屋紺炉 甘
その日、本来の予定ならば紺炉さんとデートするはずだった。それなのに、焔人が出たとか喧嘩の仲裁とか…もうバタバタとして本日の営業終了。
「…すまなかった。こっち向いてくんねェか?」
最近では一緒に寝る布団の枕に顔を埋めて、足をバタバタとしている。声を掛けられたけど、不貞腐れている私は返事をしない。でも、何だか自分が悲しくなってきて返事を返した。
『……なんですか』
「悪かったな、その…」
『いいです、別に。慣れてますから』
こんなこと言いたいわけじゃないのに…
「慣れちゃいけねぇよ。今日は、俺が悪かった。今度の休みはの好きなところに行かねェかい?」
『……どこでも?』
チラリと枕から顔を覗かせ、紺炉さんを見た。
「どこでもだ。どこがいい?」
『……第八の近くに出来たお店のランチを食べに行きたいです』
「そうかい」
ニッコリと笑って隣に寝転がった。私は紺炉さんのこの顔に弱い。この間、第八に行った時にマキさんが話していた。
(肉食紳士っていいですよね)
(…にくしょく?)
(年上の男性で、バーンズ大隊長のような方をこちらでは紳士というのです。そんな中でも普段は優しく穏やかな人が夜は野獣になるので、肉食紳士です)
(……っ)
(えっ…まさか)
絶対そうだ。その肉食紳士が目の前で穏やかな笑みを浮かべているが…後には、色気を振りまく野獣になる。
でも、
『紺炉さん、今日は…滅茶苦茶にして下さい』
そのきっかけが私であることに、喜びがこみ上げてきてしまうのはもう少し黙っていた方が良さそうだ。
(今日のは、わざとだろ)
(だって、いつも振り回されてばかりなんですから、少しくらいいいじゃないですか)
(振り回されてるのは、こっちもなんだがな)