第5章 ⑤相模屋紺炉 切甘
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『…森羅。意味ってなんの事?』
立ち止まり、真っ直ぐ森羅に向いて聞いた。
「鈍感ですね」
『…運動音痴だとでも言いたいの?』
「違っ!前に読んだ本で、簪を渡すのは」
「っ!!」
途中で遮られて後ろを振り向くと、珍しく息を切らして走ってきた紺炉さんがいた。
『紺炉さん、どうしたんですか?』
思わず、側に近寄った。背中をさすり、落ち着かせようとすると…先程、森羅からもらった簪を紺炉さんが引き抜いていた。
「森羅、悪ぃ。やっぱりは譲れねェ」
「…やっぱりそうですか。いつも、さんは紺炉中隊長の後ろばかり見てるので…そんな気はしてました」
何故か、突然二人で譲るとか譲らない話になってしまった。森羅が悲しそうな笑顔で、
「さん、よかったですね。迎えにきてもらえて」
『え、森羅?』
「今度もし、さんに悲しい顔させたら俺がもらいます!」
「あぁ、わかった。だが、もう二度と離すつもりはねェよ」
どういう事…?何で森羅泣きそうなの?
何で紺炉さんが私を抱きしめてるの?
「紺炉中隊長。さんは鈍感なので、ちゃんと伝えてやって下さい」
「…そうだな。簪もらって、この顔だもんな」