第4章 人生万事塞翁が虎
── 十五番街 西倉庫 ──
倉庫の中でコンテナに腰を掛け本を読む太宰と、背中合わせに座り太宰に凭れ乍ら目を瞑っている猗憐
「······本当にここに現れるんですか?」
『ふわぁ〜』
「心配いらない」
『虎が現れても私達の敵じゃないよ』
「そう、こう見えても《武装探偵社》の一隅だ」
「はは 凄いですね、自信のある人は。
僕なんか 孤児院でもずっと「駄目な奴」って言われてて──」
「そのうえ 今日の寝床も明日の食い扶持もしれない身で」
"天下のどこにもお前の居場所はありはせん"
"この世から消え失せるがいい"
敦の脳内に院の人達の声が流れる
「こんな奴がどこで野垂れ死んだって
いや いっそ喰われて死んだほうが──」
窓から空を見る太宰
「却説──」
「そろそろかな」
太宰に倣い顔を上げ空を見見上げた敦
ガタン
「!」
物音に過敏に反応する敦
然し辺りを窺うも静まり返っている
「今·····そこで物音が!」
「そうだね」
「きっと奴ですよ太宰さん!」
「風で何か落ちたんだろう」
「ひ 人食い虎だ 僕を喰いに来たんだ」
「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど どうして判るんです!」
「そもそも変なのだよ敦君」
本を閉じる太宰
目を開ける猗憐