第4章 触手*
……あれは、あれはまずい。あれだけはやばい、そう本能が叫んでくる。
悪魔や妖怪の類であれば、対話を試みることはできる。
でも、純粋な異端は言葉を解さない。
「ひっ、い、いや! お願い近付かないでっ!
あなただけはダメ、ダメよ!」
どうして私の塔にいるの?
レンとの契約で、こういった汚物は結界がはじいてくれるはずなのに。
幾度男に貫かれても処女膜が復活し、決して汚されない白であること……それが聖処女の掟。
けれど、悪魔と異端はその聖なる物を涜神する。
「い、いや……っ!こ、来ないでぇ……!」
ずるずるぐち、とヒトデをもっと大きくし、蛸の触腕をくっつけたような怪物が這いずってくる。
じゅる、じゅっ、ずちっ
絶望が小さな格子窓を埋めて、部屋は完全に真っ暗になる。
どこ?どこにいるの?逃げなきゃ、でもどこに?
一条の月光でさえ、もう私を見捨てた。
怪物は1匹じゃなかった。
部屋に侵入したアレがリーダー格なのか、ほかの触手たちは窓にとりつき部屋に何やら甘い匂いを漂わせはじめる。
逃げ……られない……?
真っ暗闇の部屋で、私はずるりとへたり込んだ。
背後の寝台に寄りかかる。
いや、いやよ。
暗闇の中、触手が今どこにいるのかすら分からない。自分の鼻先でさえ見えないのに。
触手が窓をびっちりと埋めて、水辺にいるような湿った匂いと、甘ったるい匂いを放つ。
恐怖で頭がおかしくなる。
いやだ、絶対いや……!
異端に犯されたら、わ、わたし、に、妊娠しちゃうんだもの……!
頭を振りながらその事実から目を背けるように否定し、身体が震え始めた。