第1章 一
……なんて言えばいいか分からない。
先輩がどんな顔するのか怖くて、俯いたまま顔が上げられない。
「絞めといたから、あいつら」
「………ぇ…」
思わず顔を上げると、先輩は『あぁ~あったあった!』と言いながら、紙の束をバサッとテーブルに出した。
「あんたは何にも悪くない。落ち度はなかったんだよ」
「……でも…」
「でもじゃない。証拠ならある」
手間取った、って、そういうこと…?
頭の中はずっと『でも』がグルグルしている。
「コンペは意地でも間に合わせな。このまま辞めさせないからね」
「……でも……」
「まだ言うか」
「…っ、今からじゃ無理ですよ…間に合わない……」
「………」
先輩が押し黙る。
悔しくて理不尽で涙が止まらない。
「……私だって…諦めるの、つらいです………っ、主任がっ……みんなだって…っ」
思っていることは思っていることとして、口に出すとあっと言う間に干からびて錆びて朽ち果てて、聞くに耐えない言い訳になっていく。
誰かのせいにしてるだけだ。
そう気づいて、そんなことを言うつもりだった自分が情けなくて惨めになっていく。
「…………」
先輩は、何も言わない。
他人のせいにするな、と怒られる前に、涙を拭って口を閉ざした。
「…先輩、ありがとうございました。私、もう続けられません。だから――」
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だから辞めます、と言えなかった。