第1章 一
ピポピポピポー ピポピポピポー
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「あ、あとからもう一人きます」
「かしこまりました、ご案内します」
夕方のピークを乗り切った店内は、まだ気配が残響しているように感じて、何となく落ち着かない。
ピポピポピポー ピポピポピポー……
ピポピポピポー ピポピポピポー……
入店音がするたびに入り口へ目をやるけど、先輩はまだ来ない。何も頼まないでずっといるのも居心地が悪くて、とりあえずドリンクバーを頼んだ。
苦いだけの薄いアイスコーヒーを淹れて席に戻っても、何もすることがない。……1回帰って、読みかけのあの本持ってくればよかったな。
ピポピポピポー ピポピポピポー…
何度目かの入店音。
何気に視線を上げると入り口に先輩がいた。思わず半分立ち上がると目が合って、そのまま真っ直ぐ私のところまで歩いてくる。
「待たせてごめん、手間取った!」
「いえ………、手間取った、って?」
「待って、喉乾いた!」
先輩は荷物を置き、着席することなく呼び出しベルを押して、店員にドリンクバーの注文をすると、足早にジンジャーエールを注いで戻ってきた。
「とりあえず、お疲れちゃん!」
「お、疲れさまです……」
チンッ
よほど喉が乾いていたのか、1回で半分近くなくなった。炭酸の一気飲み、キツくないのかな…?
グラスを置いてケフッと小さな空気砲を漏らしたあと、自分の鞄をガサゴソと漁りながら、話しは聞いたよ、と言いつつ私をチラッと見る。