第1章 一
近付くにつれて段々とお風呂の匂いが濃くなってきて、少し湿気を含んだ空気がじんわりとまとわりついてくる。
でも、そこで気付いた。
「ねぇ」
「ん?」
「もしかして、混浴?」
「あ~……」
どうだったか、と首を捻られる。
「そこまで気にしてなかったな。湯は一つだった気もするが…」
「誰か居たらどうしよ…」
「それは大丈夫だろ。何度か来たことあるが、誰かと会ったことはない」
「…そっか」
混浴だとして、政宗がいれば大丈夫だよね…?
どうか誰も来ませんように、と願いながら、白く『ゆ』の字が染め抜かれてる暖簾を分け入った。
中に背の高い衝立(ついたて)があって、外から覗けなくなっている。その脇を抜けた衝立の裏に棚が2段備え付けてあって、下段に空っぽの籠が2つあった。
「浴衣、届くか?」
私の目線より少し上にある上段に浴衣が用意されていて、折り目くらいしか見えない。
「とっ、届くわいっ!」
何がハマったのか分からないけどクククッと笑う政宗を尻目に、手を伸ばして楽々と浴衣を取って見せた。
「ほら!」
「よく見てみな」
「いや、よく見るもなにも、これ浴k手拭いだこれ」
何が決定打になったのか分からないけど、盛大に笑う政宗を見上げる羽目になった。
「…いじわる」
「だから聞いたろ?」
まだ浅く笑いながら、ほら、と棚の奥から浴衣を取ってくれた。