第1章 一
「ねぇ、ここって?」
「ここ?…あぁ、まだ話してなかったな」
ススッと一服して湯呑みを置くと、ハァ…と息をついて湯治場(とうじば)みたいなもんだ、と教えてくれた。
「湯治って……傷が痛むの?」
「?」
ポカンとした顔。
あれ?
湯治ってそういうのじゃなかったっけ?
500年のうちに概念変わった?
てか、そうかさっきの匂い!
あれ温泉だったんだ!
なんてプチパニックしていたら私の言わんとすることが分かったのか、政宗はヒラヒラと手を振りながら違う違う、と笑った。
「とりあえず、風呂に行くか」
古傷が痛むとか疼(うず)くとか、そういうことじゃないみたいでちょっと安心した。
「いや、いいけどさ……」
「浴衣は脱衣の中にある」
友達と行った温泉みたいに、人生初の湯治は手ぶらで良いらしい。
廊下に出ても、もう怖いとは思わなくなっていた。