第1章 一
私だって、叶うものなら見てほしい。
何でもあって、不要な物も必要な物も欲しいと思ったら指一本で手に入る。
美味しいものだっていつでも食べられるし、行きたいと思った時に、行きたい場所へ行ける。
激流と同じような速さで流行が移り変わるし、宇宙にだって行けなくはない。
「そろそろ行くか」
「うん」
ササッとお弁当を片付けて、係留を解いた馬に乗り上がる。少し飛ばすぞ、と言うが早いか手綱を操って、少し速度を上げた。
蹄(ひづめ)が大地を捕らえて蹴り上げるたびに、小気味良い音と振動が響く。
「あれ?帰るんじゃないの?」
「ちょっとな」
来た道じゃなく、先へ先へと馬を走らせて、空がうっすら朱色に染まり始めたころ、ひっそりとした建物に到着した。
止めた馬上から降り、簡素な厩舎(きゅうしゃ)へ係留すると、私の手を取って入り口の暖簾(のれん)をくぐる。
ふと、風に乗って嗅いだことのある匂いがした気がしたけれど、一瞬すぎてよく分からなかった。
「爺、いるか?」
……………………………………
誰も出てこない。
誰か居そうな気配はするけれど、政宗の声を聞き付けて向かってくる音も話し声もしない。
「……大丈夫、なの…?」
「あぁ。昼寝してるか山にでも入ったんだろう」
政宗は勝手が分かっているのか、足袋(たび)を脱いでそのまま上がり込んでしまった。
勝手なことして、家主さんに怒られないか心配だったけれど、私も政宗に促されるまま、下駄を脱いでそっとお邪魔した。