第1章 一
「……ん……………?…………………んぅぅ…………んー…………」
突然、息苦しさに襲われた。逃れようと首を振っても、顔の前を手で払っても変わらない。
もうダメだ、窒息する――
「んっぱっ!」
その途端、政宗の笑い声がした。
背中に振動を感じて振り返ると、政宗がものすごく笑っていた。
「………鼻、摘まんだ?」
笑いすぎてヒーヒーしながら、悪い悪いと謝る政宗の目尻に、少し光る涙があった。
「泣くまで笑わなくたって……」
「だから悪かったって。可愛かったぞ」
言ってるそばからまた思い出し笑いしてるし……
そこで私は、自分達が日陰にいるのに気付いた。乗ってきた馬は近くに係留されていて、のんびり道草を食んでいる。
「少し早いが、昼にするか」
「うん!」
政宗の膝から降りて周りを見渡してみると、眩しい日差しの下で、優風にそよぐ道草の波がうねっている。
そしてその風に乗った雲が、ジリジリと青空を滑っていく。
目の前に広がる全て。
私の生きてきた時代にいたら、知らなかったはずの景色―――
「……………」
夏と秋の境界線。
季節と色彩のコントラストが、本当に美しい時代だと思う。