第1章 一
お弁当の準備も終わり、あとは出るだけとなった時、政宗が何かを思い出したかのように部屋へ戻ってすぐ出てきた。
「忘れ物?」
「まぁな」
珍しい…政宗が忘れ物なんて…。
何を忘れたのか聞くより先に、厩舎から出されていた馬に政宗が乗った。
「」
パカラ、パカラ、と歩き出そうとするのを制して、優しく微笑む政宗が馬上から手を差し出してくれる。
現代にいたころは、夢見る女子の甘い妄想とか都市伝説だと思ってた。でも…
(白馬の王子様ってこういうことか……)
呆気なく目の当たりにした白馬の王子様に、浮わついたようなクラクラした眩暈(めまい)を感じながら、政宗の手を取って馬上に乗せてもらう。
頭より少し上から、政宗の息遣いが聞こえる。
手綱を操る度に少し息を詰まらせて、思った通りの方へ向かせたり走らせたり。ユラユラと揺れる馬上と、背中で感じる暖かさに、つい瞼が弛む……
夢と現(うつつ)の間を行ったり来たり、政宗が忍び笑いをしてるのに気付いて、一瞬ハッと意識が冴えたと思ったら、さっきよりも深く瞼も意識も落ちて行った。