第8章 捌
杏「失った者達は皆の事を見守っている。俺のように。死しても尚、俺は師であるが一人の人として君の事を大切に想っている。姿形はなくとも心に寄り添っている。」
触れることは出来ない、それは杏寿郎も同じだ。
それでもの涙を拭おうとした頬を撫でる仕草は温かく感じ、触れて貰えたような感覚だった。
何より杏寿郎の言葉がストンとの心に響いた。
杏「さぁ、泣くのはもう終いだ。皆が待っている、そろそろ戻りなさい。」
優しく微笑みに触れることはできないが辛うじて簪はもてる、それを彼女の髪に簪を優しく刺す。
立ち上がったの背に手を当て、眩く光る方を指さしそちらに向かうように促す。
『…しは…杏寿郎さん…』
杏「む?」
触れることは出来なくても真似みたいなことはできるよね。
振り向き背の高い彼に少しでも届くように背伸びをし、杏寿郎に口付けする。
『ありがとうございます…私も杏寿郎さんのことを誰よりも大切に想っています…』
そう言い残し足早に去っていくを黙って見送った。
黙ってと云うより、面食らってしまったのだが。
杏「よもや…」
唇に僅かに残る熱は幻であるが心地よいものだった。