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夢幻

第8章 捌







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真っ暗闇だ…ここはどこだろう。頭にモヤがかかるような感覚。
身体も気怠い、その場に伏せってしまいたいくらい。
そういえば暗闇のはずなのに自分の姿はきちんと目視できる、まるで自分だけに光を当てられているような感じ。





『私、何してたんだっけ』





何も思い出せない、思い出せない?
いや、違う、思い出したくないだけなんだ。
自問自答を繰り返していれば地に着いていたはずの足元が、泥沼のように泥濘始める。
引きずり込まれるように徐々に足元から沈んでいく様を無の感情で眺める。





恐怖も何も無い、本当に無だ。
第三者目線で例えるなら恐らく私は今、己の現状を冷めた目で見ているのだろう。





『大切なものはいつも消えていく』





あの人も、そう。
あの人のおかげでやっと己を認めることが出来たのに。





ドプリ…






『父さんや母さんまでも私を置いていなくなった』





思い出さなくていい、そのまま蓋をしていればいい。





『仲間もみんな…ゴポッ…』





気づけば謎の沼が口元まで迫っている。
抗う気も起きない、あの頃と同じだ。全てに絶望した、あの時と。





『わた…ゴポッ…し…は…結局…変われ…ゴポッ…な…かった…』





もう、このまま意識を手放してしまおうか。





チリン…





静寂の中透き通るような鈴の音が聞こえた瞬間、私を引きずり込んでいた闇がパッと消え地べたに臀をつく。
何が起きたのかわからず辺りを見回せば、簪が落ちていた。





『あの簪は…』





重だるい身体を起こして簪の元へ向かう。
簪を拾い上げれば急に光を纏い強く発光した。





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