第15章 帰省後のひと騒動【山姥切長義、前田藤四郎他】
言い合っているうちに執務室に到着した。
しかし、中にはこんのすけは居なかった。
「……おかしいわね。この時間帯はいつもここにいるんだけど」
「主君、これはなんでしょう?以前はなかったと思うのですが……」
前田が小さな筒を指差している。
ちょうどこんのすけがいつも座っている座布団の横に転がっていた。
この本丸にある備品はほぼすべて彩鴇が買っているが、こんな筒には覚えがない。
そうなると、さっきのそっくり式神の持ち物か。
そのまま触れて爆発でもしたら困るので解析してみる。
幸い秘匿術式はなく、あっさり解析結果が出た。
「何かの封印術がかけられてるわ。呪詛がかけられているわけではないみたいね」
さて、一体何が封印されているのか。
もし魔物、妖怪の類だと解放すると後が面倒だ。
「……こんのすけでしょうか?」
前田が心配そうに彩鴇を見る。
そう、姿を消してしまったこんのすけが封印されている可能性もある。
危険を回避しつつ、筒の中を確認するには、どうすれば良いか。
「……この部屋に結界を張った上で、その筒の封印を解くわよ」
もし封印されていたのが妖怪だったとしても、部屋の結界からは出られないようにすれば、被害は最小限に留められる。
前田もすぐにうなずく。
「承知しました。では、封印解除は僕が行います。主君は部屋の外でお待ちください」
その言葉に目を丸くしたのは長義だ。
「少し驚いたな。君はそんなことまでできるのか?」
審神者の苦手分野を刀剣男士が補うというのはよくある話だが、いくら彩鴇の霊力が低いからといっても、審神者の術の行使まで肩代わりできるのは、長義でも聞いたことがない。
有能だな、と呟いた長義に前田は苦笑する。
「僕が一から十までやるわけではないですよ、長義殿。主君に封印解除術式を組んでいただき、それを僕が行使します」
彩鴇の組み上げる術式は、霊力を流せば誰でも行使できるため、術者を選ばない。
そのため今回のような事態にも、彩鴇の安全を確保した上で対応できるのだ。
「ほう、低霊力はマイナス要素しかないと思っていたが、思わぬ副次効果だな」
「まったく!一言余計なんだから!」