第15章 帰省後のひと騒動【山姥切長義、前田藤四郎他】
(後日譚)
本丸に侵入した敵を排除し、検分も終わり、少し落ち着いた頃ーー
「主君!やはり帰省されるときは、護衛をお連れください」
前田がまっすぐ彩鴇を見据えて口を開く。
「今回の件で、あなたの身の安全が脅かされたのではないかと、気が気ではありませんでした」
「うーん、でも、みんなもたまには羽を伸ばしたいんじゃない?」
手続きが面倒というのもあるが、刀剣男士の労務環境・休暇の管理も審神者の役目だ。
男士達がきちんと休息できなければ、戦績はもちろん、巡りめぐって彩鴇の評価に響いてくる。
帰省中は彩鴇を気にせず、本丸で休息できる。
そういった意味でも単独で帰省するのは都合が良かったのだ。
どうしたものかと頭を捻る彩鴇に、前田は自分だけでは説得できる望みが薄いと悟る。
「……どうしてもですか……?」
仕方ない、彩鴇には申し訳ないが、こちらも腹を括らなければならない。
「僕だけでは至らないのであれば、兄弟に事情を話した上で、粟田口一同、主君を説得させていただきます」
「ええっ!?」
まずい、前田の目は本気だ。
粟田口兄弟全員から説得されるとなると、一期一振や平野からは理詰めで説教、乱や信濃なら泣き落とし、五虎退、秋田にいたっては本気で泣くやもしれない。
博多や鯰尾はこれ幸いと現世に連れて行くようにせがみそうだし、それらを掻い潜れたとしても、薬研や厚を筆頭に現世に勝手についてくる可能性もある。
兄弟のほとんどが極になっているのだ。
帰省先で隠密行動を取られたら、彩鴇ではまず発見することはできない。
そして、もし手続きせずに刀剣男士が現世に行った場合、政府から怒られるのは彩鴇だ。
注意勧告だけならまだしも減給処分なんて食らったら…………笑えない。
彩鴇が悩んでいるところにさらに前田がたたみかける。
「主君がおひとりで帰りたいことは承知しております。プライバシーには最大限配慮しますから、僕達が主君の身を案じていることもご理解ください」
真剣に頭を下げられてはとても反論なんてできない。
「……次からは護衛を連れて帰省するようします……」
結局、彩鴇が折れざるを得なかった。