第15章 帰省後のひと騒動【山姥切長義、前田藤四郎他】
『ゲート接続完了。門扉ロックを解除します』
やっとのことで接続された門をくぐり、彩鴇が現世から帰ってきた。
「はぁ、ただいま〜」
「お帰り、災難だったな」
「もうたどり着くまでに疲れちゃったわよ」
出迎えた長義の手にはゲートの接続を妨げていた札がある。
「この札が門に貼ってあったのね?」
「そうだよ。まったく誰がこんな悪戯を仕掛けたのか」
複雑な術式が描かれており、パッと見ると雑に塗りつぶされているのかとも取れる。
「……これ、ひとつの術式じゃないわね。3つくらいありそう」
札に目を凝らしている彩鴇が首を傾げる。
ここには彩鴇以外にも術式を使える者はいるが、悪戯目的なら受信遮断の術式ひとつで事足りる。
だというのに、まるでその術式を隠すように複数の術式が重ねてあるのだ。
「単なる悪戯じゃないってこと……?」
「主、門の出入りのログがおかしい」
長義が示した転送装置のディスプレイにはターミナルから彩鴇が帰還したログが表示されているが、実際よりも早い時刻で記録されていた。
食堂では、現世の土産話で盛り上がっていた。
「……でね、そのAIを搭載した家事ロボットが、泥棒撃退までやってくれたってニュースになってて……」
「皆さん!その者は主君の偽者です。離れてください!」
そこへ前田が駆け込んでくる。
しかし、偽者と言われても食堂の面々はいまいちピンときていない。
外見はもちろん、仕草や言動もいつもの彩鴇なのだから当然だ。
「へぇ、どうしてそう思うの?」
口火を切ったのは偽者呼ばわりされてしまった彩鴇だ。
あちらが彩鴇に敵意を持っている可能性がある以上、式神が使えないと言えば、弱みを教えることになる。
その上で前田は慎重に言葉を選んだ。
「先程結界のメンテナンスをするために式神を使っていましたが、今まで主君が使ったことのないものでした」
「……そう、気付くのが早いのね」
偽者は小さく舌打ちをすると、懐から取り出した札を構えて何やら呟く。
するとその姿は掻き消えてしまった。