第3章 跳ね駒【大俱利伽羅】
「今日はこっちだ」
厩舎へは向かわず、来たのは道場だった。
馬の練習と結びつかず、彩鴇は疑問符を浮かべている。
「落馬したときの受け身の練習だ。ある程度受け身が取れるようになるまで、1人乗りはさせない」
なるほど、安全面を考えればその通りだ。
ちょうど手合わせをしていた新選組の刀剣たちも加わり、受け身の姿勢から落馬したときを想定した馬の高さ程度の場所から落ちて受け身を取ることまで教え込まれる。
受け身練習で合格をもらった彩鴇はいよいよ今日から1人乗りに挑戦だ。
馬装を調え、準備運動しながら大倶利伽羅を待つことにする。
「伽羅、今日は主を望月に乗せるのか?」
太鼓鐘の言っていることがよく分からず、大倶利伽羅は疑問符を浮かべる。
望月はこの本丸の中で最速の馬だ。初心者が乗る馬ではない。
ふと大倶利伽羅の脳裏にある可能性がよぎる。
主はまだ馬の顔の区別がついていないのではないか。
時は既に遅かった。
練習場から彩鴇の悲鳴が聞こえたのだ。
「いやあああーっ!」
彩鴇が絶叫しながら暴走する望月にしがみついていた。
振り落とされまいとしがみついているため、馬を制御するどころか、どんどん加速してしまっている。
悲鳴を聞いた刀剣たちが集まってきたが、望月が減速するまでなす術がない。
身体を起こせ、手綱を引けと声をかけてはいるが、聞こえているのか怪しい。
思うままに駆けていた望月は柵に向かってまっすぐ突き進み、とうとう柵を飛び越してしまう。
着地の衝撃に耐えきれず、彩鴇は投げ出され、情けない声を上げて地面に転がる。
「主、無事か?!」
すぐに大倶利伽羅が駆け寄ってくる。
「ドライブにしよう?それかせめて馬車。馬に直乗りだけは勘弁して……」
彩鴇は地面に放り出された状態でそう呟いた。
確かに馬に乗って駆ける姿は美しい。だが、自分には絶対に向いていないと悟った瞬間であった。