第3章 跳ね駒【大俱利伽羅】
ーなぁ、遠乗りとかどうよ?ー
後藤藤四郎からそう誘われた。
乗り物は馬だろうか、それとも車だろうか。
車にはほとんど乗ったことがないだろうから、おそらく前者だ。
だが、彩鴇は生まれてこのかた馬に乗ったことがない。
「というわけで、乗馬の練習がしたいんだけど」
本日の馬当番の大倶利伽羅は目を丸くする。
彩鴇は良くも悪くもインドア派だ。畑仕事や馬の世話などは行うが、自ら進んで運動することは皆無と言っていい。
「……突然どうした?」
「後藤くんに遠乗りに誘われたんだけど、馬に乗ったことないのよ。せっかく誘われてるのに馬に乗れませんじゃ話にならないでしょう?」
とりあえず1カ月待ってもらうことにしたと悪びれもなく言う彩鴇に後藤がショックを受けていないかと少し心配になる。
初めての乗馬ということで、今回は人を乗せ慣れていて、気性も大人しい三国黒にリードのように縄を繋ぎ、大倶利伽羅がその縄を持って歩かせることになった。
顕現間もない刀剣も行う練習方法だ。
「わわわっ!」
実際に馬に乗ってみると想像以上に反動がきつい。
少し速度が速くなるだけでバランスを崩しそうになる。
「口を閉じろ。舌を噛むぞ」
先程から前を見ろ、踵を下げろと度々指摘しているが、彩鴇は乗っているだけで精一杯といった調子だ。
なぜ自分がとも思うが、同じく馬当番だった太鼓鐘貞宗は遠征に呼ばれてしまったし、主に怪我をされても困るので、渋々練習に付き合っている。
「無理!無理だよ!!遠乗りってこれをずっとでしょ?既に太腿からふくらはぎにかけて、つりそうだもん!」
練習を終え、疲労困憊の彩鴇がまくし立てる。
大倶利伽羅は、15分も乗っていなかったはずだがと思いはしたものの、口には出さなかった。