第12章 SANIWA Blues【大包平、鶯丸他】
「……これ、誰のジャージ?」
彩鴇ははて、と頭を捻る。
朝起きたら身に覚えのないジャージを着ていたのだ。
サイズがかなり大きく、袖が3分の1以上余っている。
内側のタグを調べると力強い字で『大包平』と名前が書いてあった。
どういう経緯で大包平のジャージを着ているのか全く思い出せないが、とりあえず返すべきだろう。
寝ぼけた頭でそう結論を出し、着替えてジャージも畳む。
今は朝食の時間帯なので、食堂にいるだろう。
よいこらせと立ち上がると、ふわふわと視界が揺れた。
「うぅ、頭いたい……」
彩鴇はやっとたどり着いた食堂で頭を抱えていた。
盛大な二日酔いである。
「昨日羽目を外して飲むからだよ。何か食べられるかい?」
燭台切が酔い覚ましの白湯を持ってくる。
「昨日……?全然思い出せない」
「物吉くんに泣きついていたよ。大包平さんが耐えかねて説教し出してね」
毎度のことだが、彩鴇は酔ったときの記憶が全くないらしい。
いつも誰かに自分の努力を認めてほしいと泣きつき、延々と愚痴を零して寝落ちする。
翌日の二日酔いまでがお約束だ。
「これ、大包平のジャージみたいなんだけど……」
なぜか朝起きたら着ていたのだと説明すると、燭台切は苦笑した。
「昨夜、大包平さんが君を部屋まで運ぶときに寒いだろうって着せてくれたんだよ。帰ってきたときに上着がなかったのは、君が着たまま寝ちゃってたからだったんだね」
噂をすればなんとやら、大包平と鶯丸が食堂にやってきた。
「あ、ちょうどいいところに。大包平、全然思い出せないけど、ジャージありがとう」
「思い出せないだと!?」
畳んだジャージを渡すと、大包平は驚きの声を上げた。
隣にいる鶯丸はなぜか吹き出している。
「昨日の俺の叱咤激励を覚えていないのか?!」
「もう全然、まったく、記憶にないのよね……」
「あれほど感動していたではないかっ!」
「うぇぇ、頭にガンガンくる……」
大包平の張りのある大声は、二日酔いの頭によく響いた。