第12章 SANIWA Blues【大包平、鶯丸他】
彩鴇の寝室に到着し、半分寝ている彩鴇を下ろすともぞもぞと布団の中に入っていく。
大包平の上着を着たまま。
「俺の上着だぞ。返さんか!」
「やぁだー」
「くっ、なんだその腕力は!?」
上着を脱がせようとすると、彩鴇は丸くなって抵抗する。
おぶっていたときの軽さからは想像できないほどの力だ。
「寝込みは襲わないんじゃなかったのか?」
「なっ!?」
ムキになっていた大包平は、その一言でパッと手を離した。
後ろで2人の攻防を見ていた鶯丸がくすくすと笑っている。
「別に明日返してもらえばいいだろう」
「そ、そうだが……」
大包平はバツが悪そうに目を逸らす。
大包平の気まずさをよそに彩鴇は布団の中で本格的に寝入り始めた。
「あの主は己にないもの、できぬことを気にしすぎだ」
食堂へ戻る途中、大包平が口を開いた。
「任務も真面目にこなしているし、演練での戦績も言うほど悪くはない。俺は主の能力が低いなどと思ったことはないぞ」
「それは彼女の努力の賜物だな」
鶯丸は彩鴇が就任して少しした頃からいるが、出陣するたびに刀装を壊していたし、演練で負け続けるときもあった。
大型の刀剣を鍛刀するのに、相当苦労していたのも知っている。
鶯丸が顕現したときは、それこそ舞い上がらんばかりに喜んでいたものだ。
「己にできぬことは別の手段で補っているのだ。それはできていると同義ではないか」
「常に妥協せず、上を見ているのだろう。良いことではあるのだが、気にしすぎるのは、主の悪い癖だ」
鍛刀こそどうしようもないらしいが、戦闘面では、皆の要望をよく聞き、すぐに試作の術式を開発、使用感を確かめて実用化していくのだ。
さらに元から彩鴇の指揮能力は高く、まだ練度が低かった最初期の頃でさえ、出陣先で大怪我を負うことはまずなかった。
さすがに想定外の敵に遭遇したときは重傷を負うこともあったが、最初の戦闘だけで、二度目からはきちんと対策を練り、危なげなく勝っている。
周りの審神者と自分を比べて劣等感を抱いているようだが、こちらからすれば、全くそんなことはないのだ。