第10章 初志【歌仙兼定、今剣】
歌仙が本丸のあちこちを行き来している彩鴇に声をかけたのは、昼下がりになったころだった。
「気落ちししていないかい?昨日から何か考え込んでいるようだったからね。困っているのなら、一人で悩まず相談してほしい」
昨日は結局こんのすけからの説明で一日が終わってしまい、聞きそびれていたのだ。
歌仙の心配をよそに彩鴇はケロリと返答した。
「全然、だってまだ何も頑張ってないもの。こっぴどく負けたんだから、なぜ負けたのか、どうすれば勝てるのかを分析しないと」
それから勝つための方策を揃えていく。
何もかも、考えつく限りを尽くしてなお及ばないのだったら、その時は泣き言を言うかもしれないが……
「自分で言うのもなんだけど、私は諦めが悪いんだから」
「その様子なら心配いらないね。頼もしい限りだ」
彩鴇の不敵な笑みに歌仙は安堵した。
「まずは出陣する人数を増やさないとね。昨日は数で負けた部分が大きいし」
「では、はやくたんとうしましょう!」
今剣が鍛刀部屋へ彩鴇の手を引くが、なぜか彩鴇は行こうとしない。
「鍛刀はまだよ。まずは満足に鍛刀できるだけの霊力を捻出しないと」
正直なところ、本丸の維持と歌仙、今剣の顕現だけで彩鴇の霊力は尽きかけている。
これでは、せっかく新しく鍛刀できても、顕現させることができないだろう。
「現時点で私の霊力はカツカツなのよ。だから、今朝から本丸の維持霊力の節約と鍛刀に回す霊力捻出のために、色々調べてたってわけ」
「えっ?」
それは審神者として大丈夫なのだろうか、衝撃の事実に今剣は開いた口が塞がらない。
かろうじて立ち直った歌仙が言葉を絞り出す。
「もう少し余裕はなかったのかい?!」
「ないものは仕方ないじゃない。……苦労をかけるけど、よろしくね」
こうして彩鴇の歴史修正主義者との戦いの日々は幕を開けた。