第10章 初志【歌仙兼定、今剣】
「主さま、何をなさっているのですか?!」
彩鴇が手伝い札を割っていたのだ。
部屋に入ってきたこんのすけが驚くはずである。
「手伝い札の術式で参考にできるものがないかなと思って」
術式の解析をかけたのだが、秘匿術式が邪魔して解析できなかった。
そこで、物理的に中身を確認しようとしているのだと言う。
手元にある札の何枚かは、うまく割れなかったらしく、無残に砕けている。
「使用済みの手伝い札は、霊力を充填して再利用されるのですよ!」
もちろん物理的に破損している札は再利用できない。
札を壊さないよう口を酸っぱくして注意する。
「だったら、この手伝い札の術式を教えてよー!」
彩鴇もむくれながらこんのすけに抗議した。
術式さえ分かれば、こんな風に札を壊す必要もないのだ。
「きょうは、しゅつじんしないのでしょうか?」
今剣は口を尖らせる。
昨日顕現したはいいが、まだ戦場には出られていない。
刀の付喪神として焦れているのだ。
「昨日はなす術なく敗北してしまったからね」
手合わせ相手の歌仙は、今剣の思いも分かるので、頬を掻いている。
しかし、今朝の彩鴇が何か考え込んでいる様子だったのも見逃せない。
昨日の敗戦から新しい主はまだ立ち直っていないかもしれないのだ。
「歌仙はしんぱいしょうですね」
「仕方ないだろう。戦の指揮をする者が不調なら、戦闘にも影響しかねない」
刀だった頃は、こんなことが障害になるとは思わなかったし、人型を得た今でも戸惑っている。
「ならば、あるじさまにそういえばよいのです。いくさをこわがっていては、いつまでもかてません」