第6章 料理は時代とともに変わるもの【信濃藤四郎、歌仙兼定他】
〈後日譚〉
同じ年の秋、本丸で初収穫を迎えた野菜を使った本格的な料理を振る舞われた。
大根と人参の紅白なます、かぼちゃの甘煮、蕪とねぎの味噌汁、栗ご飯、鮭の塩焼き、さつまいもや茄子、しいたけの天ぷら
目にも鮮やかな料理の数々が香りと共に食欲をそそってくる。
食堂に集まった面々は、待ちきれず手を合わせて「いただきます」と挨拶すると、我先にと料理をよそっていく。
「どうだい?これが本当の料理というものだよ」
歌仙は自慢気に彩鴇を見下ろすが、当人は食べることに夢中で聞こえていないようだ。
「おいしいーっ!」
言葉にせずとも彩鴇の口いっぱいに頬張る様子が何より物語っていた。
「……光忠、ちょっとお願いがあるんだけど」
彩鴇がしきりに周りを窺いながら厨房に入ってきた。
「かぼちゃの甘煮を作りたくて、厨房を貸してほしいの。……材料は取ってきたし、レシピも調べてきたわ」
手には少し土がついたかぼちゃを抱えていた。畑から食べ頃のものを収穫してきたのだろう。
「どうしてかぼちゃの甘煮を?」
「この前、歌仙がたくさん料理作ってくれた中で一番気に入ったのよ。……あ、歌仙には内密にしてね」
「彼に教わらないのかい?」
「何か手順飛ばしたり、順番を間違えたら、絶対小言もらうもの。きっとそれで喧嘩になっちゃう」
彩鴇と歌仙は折り合いが悪いわけではないのだが、お互いが自分を曲げないので、ぶつかることが多い。
歌仙がいないときを狙ってきたんだからと口を尖らせながら、調理道具を出していく。
この後、一波乱起こることを燭台切はまだ知らなかった。